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新規事業から撤退すべき? 状況の見極め方とその後のリカバリー戦略
目次
新規事業への挑戦は、企業の成長と進化の源でもあります。しかし、残念ながらすべての事業が成功するわけではありません。事業の将来性や継続性についての不安、市場の厳しい状況、競合との激しい競争があるなかで、経営者やマネージャーがもっとも悩むのが「事業を続けるべきか、撤退すべきか」の判断です。撤退の判断は、単に事業がうまくいっていないからといった短絡的なものではなく、多岐にわたる要因を考慮する必要があります。
この記事では、新規事業の撤退を検討する際の判断基準や成功事例、撤退のプロセスやその後のリカバリー戦略について解説します。適切なタイミングでの撤退は、新たな成功への第一歩とも言えます。事業に対する迷いや不安を解消し、次なるステップへと進むためのヒントを見つけていただけたら幸いです。
新規事業撤退の必要性とメリット
事業は常に順調に進行するわけではありません。市場の変動や競合の動き、技術の進化など、多くの外部要因によって事業の継続が難しくなることも少なくありません。そんなとき、適切な撤退の判断が求められます。
事業の撤退は、失敗と捉えられがちですが、正確には「戦略的な選択」とも言えます。新たな“選択”は不要な資源の浪費を防ぎ、企業の成長を支える他の事業へのリソースを集中させることができます。撤退のメリットは、経営資源の効率的な再配置や組織全体のリスクヘッジ、新たなビジョンへのシフトが挙げられます。
重要なのは、撤退の判断を適切なタイミングで行うこと。事業のKPIやPL、市場の状況を常にモニタリングし、早期撤退のサインを見逃さないことが求められます。撤退の決断を下すことで、企業は新たな方向性を見つけ、更なる成長へのステップを踏み出すことができるのです。
新規事業から撤退すべきか見極めるための判断基準
経営者やマネージャーは時に冷静な判断を下す必要が出てきます。事業を継続すべきか、それとも戦略的に撤退すべきか。この難しい選択を行う上での指針となるのが「判断基準」です。KPIやPLをはじめとした数値データの分析から、市場の動向、競合との関係、自社のリソースの最適化まで、多角的に事業を評価する視点を持つことが求められます。撤退を検討する際の判断基準となる5つのポイントを解説します。
KPI(重要業績評価指標)
成功の指標として欠かせないKPI。新規事業の目的や戦略に基づき、事業の健全性や進行度を数値で示す重要な指標です。設定の例として、売上成長率やユーz獲得コスト、リテンション率などが挙げられます。KPI設定の際のフレームワークとして「SMART」(具体的・測定可能・達成可能・関連性・時間制限)がよく使われますが、事業目的を設定した際にSMARTをベースに設定していると思いますので、初期設定と現状にどのくらい差があるか確認します。
PL(損益計算書)
収益と損失を確認するPLは事業の健全性を示す重要な指標で、事業継続の可否を判断する基盤となる情報です。事業が黒字か赤字かをつまびらかにする役割をもっています。赤字の場合、原因や解消策を練る必要があります。
収益向上のためのフレームワークとして「ゼロベース予算編成」を選択肢に上げてもいいかもしれません。これはすべての経費をゼロから見直し、必要なものだけを予算に組み込む方法で、経費を精査し直すことで、もっとも高い収益を生み出す活動を優先します。
市場状況
市場の動向やトレンドを理解することは、事業の将来性を予測する上で欠かせません。市場の成長性や顧客のニーズ、技術の進化などをチェックし、事業のポジショニングを考え直すことも必要です。市場分析のフレームワークとして「PEST分析」(政治・経済・社会・技術)があり、外部環境の変化をシステマティックに評価します。事業立ち上げの際に行ったPEST分析を現時点で再度行い、環境の変化に原因があるかどうか確認します。
競合
競合との位置関係や強み・弱みを理解することで、自社の事業戦略を磨き上げることができます。事業立ち上げの際、他社との差別化に「SWOT分析」(強み・弱み・機会・脅威)を用いて自社の現状を分析していると思います。事業開始後に外部環境や内部環境がどう変わったか、再度分析してみてください。改善点や伸ばしたいポイント、最初に想定していたこととは異なった展開になっているかどうかが確認できます。
自社リソース
新規事業からの撤退を考える前に、現時点で自社リソースを十分に活用しているかを再評価します。ポイントは4つで、人材リソースの確認、資金の確保、技術や設備の有効活用、知的財産の活用です。現在のチームが目の前の課題に対応できるスキルを持っているか、継続的な育成や外部からの採用が必要かを検討します。資金については、継続的な運営費や予期せぬ出費もかさんでいることと思います。今後に備える資金確保も考慮します。
また、既存の技術や設備を活用できるかを再評価します。とくにデジタル技術や情報システムは、効率的な事業運営のカギとなることも多々あります。くわえて、自社が持つ特許やノウハウがほかに活用できるものがないか確認します。これらを最大限に活用する戦略を練った上で、事業継続の可否を再検討します。
新規事業から撤退した「成功事例」
多くの企業が経験するように、撤退の判断は客観的な基準に基づいて行うものですが、「○○さんががんばっている」「会社の方針」といった感情的や主観的な理由でだらだらと継続してしまうこともあります。撤退に必要なのは、明確で納得感のある基準です。ここでは、撤退の成功事例として、事業撤退の背景や判断基準、撤退の経験を次にどう活かしたかについて、3社の事例をご紹介します。
「ユニクロ野菜」の失敗がGUの成功につながったファーストリテイリング
2002年に生鮮野菜の生産・販売事業「SKIP」をスタートさせたファーストリテイリング。ユニクロはアパレルで生産・流通を効率化し、高品質な商品を低価格で提供していますが、生鮮野菜に応用すれば、同様の成功が期待できると考え、新事業に挑戦しました。
しかし、わずか1年半で30億円の大赤字に。事業撤退を決定しました。失敗のおもな要因は、顧客ニーズの不十分な把握、農産物業界の知識不足、パートナーへの影響の認識の不足でした。これらの反省点を基に、失敗点をまとめた小冊子をつくり、社内に配布し、共有したそうです。
その後、事業担当者は赤字事業だったGUに参加。990円ジーンズを投入し、GUは一時的な黒字転換を果たしますが、外資系の競合の登場により、再び厳しい状況に。その打開策として、顧客ニーズを十分にヒアリングし、自社デザイナーによる日本人向けのデザインへと切り替え、大成功。GUは現在も成長を続けています。
柳井社長自らが「一勝九敗」と公言するように、ユニクロは多くの挑戦を繰り返し、失敗も多い。しかし、その失敗を失敗のままにせず、学び、活かす。その姿勢がユニクロの成長の背景にあると言えます。
事業の撤退基準を明確に掲げ、新規事業に挑戦し続けるサイバーエージェント
サイバーエージェントは新規事業の成否に関わらず、経験やノウハウを次の事業や戦略に活かすことを重視しています。企業文化として「失敗を恐れず挑戦する」という価値観が根付いており、それが多岐にわたる新規事業展開の背景にもなっています。
事業は営業利益に基づいてランク分けしており、具体的には、四半期営業利益10億円以上をJ1、1億円以上をJ2、営業利益が黒字のものをJ3としています。2四半期連続で減収減益となった事業は撤退もしくは事業責任者の交代を検討する基準を設けています。
- Ameba Piggの英語版
Ameba Piggは日本で非常に人気がありましたが、英語版は期待されたほどの人気を獲得することができず、運営を終了させました。 - ソーシャルゲーム事業
2010年代ごろ、サイバーエージェントはソーシャルゲーム市場に力を入れていましたが、市場の成熟や競合の激化を受けて、一部のゲームタイトルのサービス終了や事業構造の見直しを行いました。
「次のメルカリになる可能性があるか」PLを基準に撤退判断をするメルカリ
メルカリは自社の初期の成長データを持ち、これを新規事業の業績と照らし合わせてその事業が「(次の)メルカリになる可能性があるか」を判断しています。基準はメルカリの初期のPL(損益計算書)です。新規サービスローンチ後の3ヵ月間で、どれだけの広告費を使用し、どれだけ成長したかというデータを、メルカリの初期のデータと比較し、違うと思ったらクイックに撤退を判断します。
- メルカリNOW
メルカリ内の即時買取サービス。2017年に提供開始、9ヶ月で終了。 - ティーチャ
語学や料理など個人間のスキルシェア。2018年に提供開始、4カ月で終了。 - メルカリメゾンズ
ブランド品に特化したフリマアプリ。2017年に提供開始、1年で終了。
撤退した事業は、プロダクトやUXデザインの質は高かったものの、マーケティングの専門家が不在だったことが、サービスの拡大の障壁となっていたそう。以後、新規事業のチーム編成の段階からマーケティング担当者を含めるべきと考えて運営しています。
新規事業から撤退するときの注意点
事業から撤退する判断は、誰にとっても非常に難しいものですが、重要なのは「どう撤退するか」です。適切なタイミングや方法を選ばなければ、撤退後のビジネスへの影響が計りしれないためです。
撤退のプロセスには、市場の動向の把握やステークホルダーとのコミュニケーション、コストやリソースの管理が含まれます。これらを適切にバランスさせながら進めることで、既存ビジネスや未来への影響を最小限に抑えることができます。
タイミング
事業からの撤退もまた正確なタイミングが求められます。早すぎる撤退は可能性を逸するリスクがあり、遅すぎる撤退は余計なコストやリソースの損失を招く可能性があります。このタイミングで使いたいのが、「BCGマトリクス」です。
縦軸に市場成長率を、横軸に相対的市場シェアをとり、4象限に分類して事業のポジショニングを確認するフレームワークです。「星」「問題児」「牛」「犬」のどのカテゴリに該当するかを検討し、「犬」カテゴリに位置する事業は、撤退を検討すべき時期が近いと言われています。
スケジュール
事業撤退のスケジュール策定は、撤退のタイミング同様重要です。全体のフローを明確にすることで、不要なコストの増加や関係者とのトラブルを防ぐことができます。マイルストーンの設定・リソースの再配置・関係者へのコミュニケーション、この3つがポイントです。
事業撤退は多くのステップから構成されるため、各フェーズの開始と終了を明示します。その際に必要なのが、リソースの再配置です。撤退のためのリソースを整理し、人材の調整、必要な資産の売却、その他のリソースの解放などを行います。
また、スケジュールを策定する際、撤退の決定や進行状況を関係者に伝えるためのコミュニケーションもスケジュールに組みこみます。撤退はネガティブな話題になりやすいため、ミスコミュニケーションや情報の遅れが発生しやすいもの。不要なトラブルを未然に防ぐため、情報伝達の内容や順番も計画しておくとより安心です。
撤退にかかるコスト
事業撤退のコストは事前に計画し、できる限り最小限に抑えます。撤退コストとして対処が必要なものはおもに3つあり、人材・資産処分・契約解除のコストです。
人材については、撤退に伴い、従業員の再配置が必要となる場合があります。部署異動などを伴う場合は、新たな部署での教育コストが発生する可能性もあります。次に、資産の処分コストです。使用していた機器や在庫などを売却する際、仲介手数料や処分費用、資産の減損損失などが挙げられます。最後に、契約解除のコストです。サプライヤーやパートナー企業、契約スタッフとの契約解除の必要性が生じることも考えられます。その際は違約金やペナルティが発生する可能性があります。
関係者へのコミュニケーション
撤退を決断した際、もっとも重要なのは関係者へのコミュニケーションです。関係者とは、従業員・取引先・投資家・顧客など、事業に関わるすべての人々を指します。正確で迅速な情報提供は、不要な不安や誤解を防ぎ、あらぬ憶測が広がるのを阻止できます。
- 従業員
従業員は企業の一部として事業の成功・失敗を共有する存在です。撤退決定の理由はもちろん、今後の方針、専業で従事しているメンバーについては再配置などについて、現時点の状況を正確に伝えます。 - 取引先・パートナー
事業撤退は取引先やパートナーにも影響を与えてしまうため、早めの情報共有と今後の取引に関する計画や提案を行います。信頼関係を維持し、今後のビジネスチャンスを逸さないよう尽力します。 - 投資家やステークホルダー
事業撤退の影響や今後の経営方針を、透明性を持って伝え、投資家の信頼を保持します。状況を正確に把握してもらうことで、将来的な資金調達や株価への影響を緩和できる可能性があります。 - 顧客
顧客に対しては、サービスの終了や商品の提供停止に関する情報、代替案があれば代替案を提示します。
新規事業から撤退した後に取るべきアクション
撤退は、多くの経営者や関与者にとって、心理的・経済的な重荷となることが少なくありません。この選択がどれほどの価値を持つかは、撤退後の行動次第で大きく変わります。多くの成功した企業家や組織はこうした局面を乗り越えることで得られる知見や経験を、次の成果に繋げてきました。ここで大切なのは、撤退の原因や背景を冷静に分析し、それを次のアクションに生かすことです。撤退を「終わり」ではなく、「新しいスタート」への第一歩と捉え、前向きなアプローチを探求しましょう。
撤退に至った理由を分析する
この分析は、今後の事業展開や方針転換のときの教訓としてやる必要がありますし、価値があります。まず、事業が進展しなかった具体的な要因を明らかにします。市場ニーズの見落とし、競合との差別化の不足、マーケティングや販売戦略の誤りなど、考えうるさまざまな要因を考えます。
次に、フレームワークを使った考察です。SWOT分析を用いて、立ち上げ時に考えた自社の強み・弱み・外部の機会・脅威と、撤退を決めた折の現状と比較して、何が足りなかったのか。また、自社でできることはやれていたのかを検証します。また、5W1Hで何を・なぜ・いつ・どこで・誰が・どのように行ったのかを洗い出します。これにより、問題の根本原因を深堀りできます。
チームメンバー個々の視点によるフィードバックを集めることも欠かせません。それぞれの専門性から見た視点や体験を集めることで、新たな気づきや改善点が見えてきます。
これらの分析結果を元に、今後同じ過ちを繰り返さないための改善策や新たなアプローチをまとめることで、失敗を次の機会に繋げることができます。撤退の背景にある原因を明らかにすることで、次の挑戦への布石を築くのです。
新たな事業計画の準備
新規事業の撤退後、新たな事業計画の準備に取りかかることもあると思います。このプロセスは、先の失敗を経験として活かす重要なフェーズになります。
- 市場リサーチの再実施
撤退の原因分析から得られた情報を元に、市場のニーズやトレンドを再確認します。変化する市場環境に合わせて、新たなターゲット顧客やニッチなセグメントを特定します。 - 強みの活用
自社の持つリソースや技術・過去の経験を活かし、新事業の方向性を定めます。失敗が新しい視点やアイディアの源泉となることも多いです。 - リスク管理
失敗を踏まえてリスク要因をリストアップし、それぞれのリスクに対する対応策を書き出します。失敗を踏まえたリスク管理となるため、より迅速かつ適切に対応できるようになります。
メンタルケア
新規事業の撤退は、企業や組織、関わるすべてのスタッフにとって大きな打撃となることが多いです。とくにリーダーやプロジェクトの中心メンバーは、責任感や自責の念にかられることが一般的です。このような状況下でのメンタルケアの重要性は高く、組織全体の再起を図るポイントになります。
ここで必要なのは、オープンなコミュニケーションです。撤退理由や今後の方針を率直に共有することで、不安や疑問を払拭し、どんな結果であれば、全員が同じ方向を見据えることができます。また、事業の撤退は終わりではありません。新たなスタートのためのトレーニングやワークショップを実施し、メンバーのモチベーションを引き上げます。
最後に、リーダーや中心メンバーは、自身のメンタルケアも忘れずに行ってください。自分自身が安定した心の状態を保つことで、チーム全体をリードし、再び新しい道を切り開く力となります。
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新規事業の発展や成功には、ただアイディアやプロダクトの質だけでなく、多角的な視点が必要です。メルカリのような大手から学ぶと、客観的な撤退基準や組織内の適切な人材配置が、サービスや事業の持続的な成長には不可欠です。とくにサービスが伸び悩んだ際のマーケティング人材の不足や撤退基準の不明確さは、数多くの事業が直面する課題として浮かび上がります。これらの課題は、企画段階だけでなく、実際の運用や拡大段階でも適切な対応や判断が求められます。
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